「彼の心の霧の中で」

「彼の心の霧の中で」

冬の冷たい風が吹き抜ける中、彼女は彼との思い出に浸りながら校舎の階段に腰を下ろしていた。心の奥底で、彼と過ごした一年が一瞬の夢のように感じられた。彼の笑顔、優しい声、そして無邪気な笑いは、もう彼女のも
のではないのだと実感する。

「好きか分からない」と言われたとき、彼女はただその言葉に呑み込まれた。彼の心を理解できないもどかしさが、まるで霧がかかったように彼との距離を生んでいた。それでも、彼が手を繋いで帰った日のことを、彼女は思い出そうとする。あの夜、彼の温もりを感じながら、未来を夢見ることができていた。

文化祭の約束、LINEのやり取り、そしてお揃いのユーザーネーム。すべては彼女の心を支えるための小さな灯火のように思えた。彼もまた、別れを選ぶことがどれほど辛いか察しがつく。話しているときに涙をこぼした彼の姿が、心に焼き付いている。

しかし、彼女は知っていた。このまま期待を抱き続けることが、どんなに苦しいかを。それはただの希望ではなく、相手の気持ちに縛られることになる。彼が復縁を考えていないと明言したその瞬間、彼女の心の片隅には不安が芽生えた。それでも、彼の心の中には何かしらの変化があるのかもしれないと信じたくもなる。

最終的な別れの言葉が彼女の耳に響き、彼女はその重さを受け止めることができなかった。愛の形は人それぞれだけれど、彼が持っている思い出のピースは、彼女にとって忘れがたいものとなった。お揃いのシールやお守りが、もどかしさを感じさせる。

彼女はふと彼のことを考え、少しの距離を置くことが本当に正しかったのかと自問した。人は時に、相手を思いやるのと同じくらい、自分を守ることが必要なのかもしれない。そこに彼女の心の痛みがあった。

彼女は立ち上がり、過ぎ去った日々に別れを告げることに決めた。彼と添い遂げることはできなかったが、彼女自身の人生を生きていく中で、一つの章が閉じられたことを受け入れる。彼女はもう、二人の物語の一部ではなくなったのだ。